も、かうした気分を味ひ得たのは、釈場に於てゞあつたが、それも、今日では極めて淡いものになつてしまうた。時代々々の道徳の力は、あらゆるものを変化せしめずには置かない。同時に、時代々々の文芸・芸術は、此と交渉なしには生れない。現代の道徳は立派であると言へよう。だが、今日では、多少、それが固定したと思はれる。随つて、感激性を失つた。
現代の文芸・芸術が、此を重視しなくなつたのには、さうした理由があるのだと思はれる。

     二一 結び

話が、かなり岐路に分れたと思ふが、要するに、日本のごろつき[#「ごろつき」に傍線]には古い歴史がある。而して、鎌倉以後は、此が山伏しと結びつくやうになつて、著しく社会の表面に顔を出す様になつた。法術を利用して、大名にとり入るやうになつたからである。
併し、彼等が根拠地としたのは山奥で、常には、舞ひや踊りを職業とし、年の始めには、檀那の家々を祝福して廻りもしたので、其中には、山奥に残るものもあり、里に出て来たものもあり、里に出て来たものゝ中には、大名となり、また其臣下となつたやうなものもあつたが、遂に、其機を逸したものは、徳川の初期に於て人入れ稼業を創始し
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