らう。山三は、幸若の舞太夫だつたと思ふ。
当時は、幸若舞の最盛んな時代だつたので、舞ひと言へば幸若舞の事を言ふのであつた。其他、舞々・舞太夫、すべて幸若に関したものを言うたのであつた。幸若舞は、千秋万歳に系統を持つ曲舞から出たので、曲舞のうち、武家に好まれたものが、即、幸若舞であつた。随つて、幸若舞には、武張つたものが多い。併し、もと/\、幸若は社寺の芸術だつたのである。
伝説によると、山三は、蒲生氏郷の寵を受けた、当時有名の美少年だつたとあるが、其見出される迄は、建仁寺の西来院に居つたともある。当時、有名な美少年としては、彼の外に、もう一人、秀次の愛を受けた、不破伴作があつた。併し、もと/\、彼等は、ごろつき[#「ごろつき」に傍線]だつたのである。山三は、蒲生家から浪人して後、諸国を廻つたとあるが、彼等は、さうして、主君にありついた時には、其酒席に侍つた。男色は彼等が主君にとり入る一つの手段だつたのである。
すつぱ[#「すつぱ」に傍線]と同じやうな意味を含んだ語に、しよろり[#「しよろり」に傍線]といふものがあつた。やはり、諸国を流浪し、豪族たちの庸兵となつたので、其まゝ臣下となつた
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