介、この人の王朝は、今昔物語式には最的確な王朝物は書いたけれど、源氏・伊勢が代表する平安朝の記録と言ふところには達しなかつた。堀君は心虚しうして書く人だけに、極めておほまか[#「おほまか」に傍点]にではあるが、おほまか[#「おほまか」に傍点]だけに、王朝貴族の生活のてま[#「てま」に傍線]を適切に捉へることが出来た。源氏の論文を書いた人の中には、私の尊敬してゐる人々が多いが、その方々にも、堀君の「若菜の巻など」は、是非読んで頂きたいと思つてゐる。其ほど、源氏の学史にとつては、大きな提言をしてゐる。
「伊勢物語など」は、堀君の詩人としての権威を、感じさせる文章である。りるけ[#「りるけ」に傍線]のどういの[#「どういの」に傍線]の悲歌を引いて、神に似た夭折者を哭し、その魂を鎮めようとする考へ方をひき出して来てゐる。その点は、古代日本人に似てゐるが、又違ふ。西洋人のやうに、其を自分の慰め・救ひとするのではなく、たゞ人の魂を鎮めることにしてゐたと言ふあたり、……併しどちらにしても、此鎮魂的なものが、一切のよい文学の底にあることになる。
「更級日記」の作者は、感覚がむやみに発達して、時としては
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