、男女間のくどき言が多いからと考へて来たのは、実は間違ひかも知れない。口説《クドキ》の中に男女間の口舌《クゼツ》や妄執・煩悶ばかりを扱はぬ純粋な叙事詩もあるのである。さうすると、こどき[#「こどき」は罫囲み]と言ふ語も文献に現れないで、民間信仰の上にくどき[#「くどき」は罫囲み]と音韻の少しの変化した儘で、曲節が伝つて居り、さうした節まはしに謡はれる詞曲はすべて、「くどき」と言ふ名に総《す》べられたと見られる。さすれば、「ほざく」の説もなり立ちさうである。
唯万葉にも一箇所「ほさく」らしいものがある。「千年保伎保吉とよもし」(巻十九、四二六六)と言ふのであるが、鹿持雅澄は伎は佐の誤字として「ほさきとよもし」と訓んだ。宣長が「ほぎほぎとよもし」が「ほぎきとよもし」となつたのだとした説を修正したのである。宣長説も理窟は立つてゐるが、雅澄の方が正しいと思はれる。さて「ほさく」と言ふ語があつたとすると其語源の考へが、「ほ」の議論に大分大きな影響を与へさうである。私の考へでは、ほぐ[#「ほぐ」に傍線]・ほむ[#「ほむ」に傍線]の外に今一つ「ほす」と言ふ語があつて、其を更に語根として、「ほがふ」同
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