字]」とあるほさく[#「ほさく」は罫囲み]と言ふ動詞があつた様に見える事である。谷川士清はその書紀通証に、今も言ふ「ほざく」と言ふ語の元と言ふ思ひつきらしい説を記しつけてゐる。なるほど託宣から出て、「御託《ゴタク》を並べる」など言ふ類もあるから、一概に否定は出来ない。但し其には、近世まで文献に現れる事なく「ほさく」と言ふ語が、庶民信仰の上に行はれて居たと見ねばならぬ。此点は、千数百年間の空白を補ふ用例の出る時まで断言は預つて置く。
さう見られなくもない事は、古い祭文の芸術化(索引ほがひゞと[#「ほがひゞと」は罫囲み]参照)した側から考へられる事実があるのである。其由緒を陳弁する方面から「ほざく」を悪い意味に使ふ様になつたと見られる。其と共に「ふざける」と言ふ語原不明の近代語も、ほがひゞとの「おどけ祭文」の側から言うたものと見ることも出来さうである。「ことほぎ」を「こどき」と言うた事は其条に述べたが、此も亦、祭文として芸術化したものと見れば、後世の「口説《クドキ》」と言ふ叙事風な語り物の本義が知れるのである。「くど/\」など言ふ副詞の語根「くど」から動詞化した「くどく」と言ふ語と同根と見
前へ 次へ
全32ページ中29ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング