を作つて、天神地祇を祭つた条に、「譬はゞ水沫《ミナハ》の如く呪《カシ》り著くる所あり」と言ふのは、単純な祭器を作る為ではなかつた。香具山の土は倭宮廷の領土の象徴ととり扱はれたのである。「武埴安《タケハニヤス》彦の妻|吾田《アタ》媛密かに来て倭の香具山の土を取り領巾《ヒレ》に裹《ツヽ》み、『是は倭の国の物実《モノザネ》(又ものしろ[#「ものしろ」に傍点])と祈《ノ》み曰ひて乃ち反りぬ」とあるのも、国の呪《カシ》りの為に土を持つて行つたのであつた。だから土を盗みに行くに先つて、神の訓へた言には、「宜しく天の香具山の社の中の土を取りて、天《アメ》[#(ノ)]平※[#「扮のつくり/瓦」、第4水準2−81−13]《ヒラカ》八十枚《ヤソヒラ》を造り、并せて厳※[#「扮のつくり/瓦」、第4水準2−81−13]《イツベ》を造りて、天神・地祇を敬祭し、亦|厳《イツ》の呪咀《カシリ》をせよ。此の如くせば則、虜自ら平伏せむ」とある亦の字の用法が、土を呪《カシ》りの対象にした事を示すと共に、香具山の動植物を神聖視するに到つた径路を見せてゐる様である。だから、祭器を作つたと言ふのは、合理的な説明と見てよい。

前へ 次へ
全32ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング