を、神に証して貰ふといふ観念から、誓約方式となつたが、一方分化したとこひ[#「とこひ」に傍線]の例では、倫理観が著しく這入つて来て、善なら無事であれ。悪なら禍あれと言ふ考へ方になつてゐる。ちかひ[#「ちかひ」に傍線]の例にも此考へが這入つて、天罰の背景の下に誓約する事になるのである。
とこひ[#「とこひ」に傍線]が悪に対する懲罰を請ふ方法と言ふ風に考へられ、更に転じて自分を不利に陥らした相手に罰の下る事を願ふ呪言と言ふ考へに移つて、純然たる呪咀となる。だが、復讐観念の伴うてゐないとこひ[#「とこひ」に傍線]はなかつた。秋山[#(ノ)]下冰壮夫《シタビヲトコ》に対する春山[#(ノ)]霞壮夫の御母《ミオヤ》の採つた方法などは、此例のとこひ[#「とこひ」に傍線]の著しい例である。嫉妬・我欲等の利己の動機から出るものは、かしり[#「かしり」は罫囲み](動詞かしる[#「かしる」は罫囲み])と言ふ語であつたと考へられる。つまりは、とこひ[#「とこひ」に傍線]の分化したもので、単に必要上他人の生活力を殺がうとする呪言である。とこひ[#「とこひ」に傍線]の後期からかしり[#「かしり」に傍線]に入ると、
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