おなじ東歌で、古いものゝ方が新しいものよりも、変化した形をとつて居るのも、民間伝承学の上から見れば、不思議はない。
誓ひは神を偽証人とせない事を本則とするのだが、神の名を利用して人を詐く者が出て来る様になつて来る。日本紀の一書にも、ほのすせりの[#「ほのすせりの」に傍線]命が、ほゝでみの[#「ほゝでみの」に傍線]命に「我当に汝に事へまつりて奴僕たらむ。願はくは救ひ活けよ。」と言うて置きながら、潮が干ると前言を改めて、「吾は是れ汝の兄なり。如何にぞ、人の兄として弟に仕へむや」と言うて、再び潮満つ珠の霊力で苦しめられる話がある。新しい様式に交つて古い様式の遺つて行くのが常であるから、此話なども誓ひに対する新しい心持ちを見せて居るのである。だから、天罰を背景にして誓ひをする風が行はれて来る。天智紀(十年十一月)の内裏西殿織仏像の前の誓盟[#「誓盟」に白丸傍点]は其である。「……大友[#(ノ)]皇子手に香炉を執りて先起ちて誓盟して曰はく、六人(赤兄・金・果安・人・大人及び皇子)心を同《トモ》にして天皇の詔を奉《ウ》く。若し違ふことあらば、必天罰を被らむ……左大臣蘇我赤兄[#(ノ)]臣等手に香炉
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