聖地ではない様である。
蚤の乗る船の事は、正月の宝船の古い形式・奥州の佞武多《ネブタ》などゝ一つ思想から来たものなのだ。寝牀の悪虫や、農家の坐職に妨げする(――併し、古くは、夜ざとく睡つて、災害を免れる為の呪ひであつたらうと思ふ――)睡魔を船に流して、海のあなたに放逐するつもりであつた。だから、沖縄とは正反対になつて居るが、海阪《ウナザカ》の彼方《オチカタ》には、神でもあり、悪魔でもある所のもの[#「もの」に傍線]の国があると考へたのが、最初なのだ。我が国で見ても、幽界《カクリヨ》と言ふ語の内容は、単に神の住みかと言ふだけではない。悪魔の世界といふ意義も含んでゐる。幽界に存在する者の性質は、一致する点が多い。其著しい点は、神魔共に夜の世界に属する事で、鶏鳴と共に、顕界《ウツシヨ》に交替する事である。民譚に屡出る魔類と鶏鳴との関係は固より、尊貴な神々の祭りすら、中心行事は夜半鶏鳴以前ときまつてゐる。此で見ても、わが国の神々の属性にも、存外古い種を残してゐたので、太陽神の祭りにすら、暁には神上げをしなければならなかつた位であつた。
古代程神に恐るべき分子を多く観じたが、海のあなたから来る神
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