の他、家人の心をひき立てる様な詞をのべて廻る。かうした神々の外に、家の神としてゐる祖先の霊が、盂蘭盆に出て来る村もある。あんがまあ[#「あんがまあ」に傍線]と呼ぶ。男の祖先と女の祖先(此を祖父《オシユマイ》・祖母《アツパア》といふ)とが眷属を連れて招かれた家々に行つて、楽器を奏し芸尽しなどをするが、大人前《オシユマイ》が時々立つて、色々な教訓を家人に与へ、又従来の過・手落ちを咎めたりする。此三通りの常世のまれびとが、一つの石垣島の中に備つてゐる。
神の属性の純化せない時代の儘の姿である。あんがまあ[#「あんがまあ」に傍線]は語原不明だが、類例から見れば、やはり信仰上の地名であらう。此人々の出て来る処は、理想の国ではない。唯祝福と懲戒の責任と権利とを持つた一種の神が、人間の国土の外から来る訣なのである。にいる人《ビト》[#「にいる人《ビト》」に傍線]の場合も同様で、村の中堅たる若衆を組織し、一つの信仰を土台として、新しい人の手で古い村の生活を古い儘に伝へて行かせようとするのである。此も神とも鬼ともつかぬ人間の都合よい事ばかりを計る者ではない。其国は、蚤の来る国如き手ぬるい禍を持つた好しい
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