には、地物の精霊とは別で、単に祟《タヽ》り神としての「媚び仕へ」ばかりでなく、邑人に好意を寄せるものとして迎へる部分があつた。だから、神の中に善神の考へ出されるのは、常在する地物の神にはない事で、時を定めて常に新しく来り臨む神の上からはじまるものと見るべきであらう。但し、海のあなたの神の国から来る神も、必しも一村に一神とはきまつて居なかつた様である。が、大体ある村にきまつた「常世の神」は一体或は、一群だつたのであらう。村々の信仰が「常世の神」或は大空の神(――宮廷の言ひ方では高天[#(个)]原――)に、主神と見るべきものを考へて来ると、段々主神に倫理的の性質を考へて来る。併しさうした神たちも怒りを発して祟られる事はあるのである。常世神が後世地方々々の神社の神となつたとは言はれない。神の属性を高める事はする。其上、神の殿に神の常在せぬと言ふ観念を、地物の神の殿にまで及すまでに、力強く働きかけてゐる。にも拘らず、明らかに一処に常在せぬ、臨時にこひおろす事の出来ぬ事は、此種の神が存外神殿に祀られてゐない一つの理由であるが、ほかにも、訣がある。
邑人全体の自由祭祀によつて、村の中堅なる年齢の若
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