「田の神」を祭る式の附属の様に見えるが、やはり此精霊を祀るのでなく、常世神を迎へたのであらう。なぜならば、大殿祭は、刈り上げ祭りの上に、新室ほがひ[#「新室ほがひ」は罫囲み]と家あるじの寿命に対する「よごと」を結びつけてゐるのである。単に田の神にする奉賽の新嘗の式と接近して行ひながら、別々に行うてゐるのは、新嘗の主賓たる常世神が感謝を享けると同時に、饗応の礼心に生命・住宅の安固を約して行くと考へた為であらう。生命・建築は、常世神の呪言の力を最深く信頼してゐるものなのである。大殿祭の式は要するに、新嘗の式の附属例に過ぎない。新嘗を享ける神が、最初の信仰からして、「田の神」でなかつた事を見せてゐるだけである。
「大殿祭」類似の毎年家を中心として、祝言を述べる行事は、宮廷だけではなかつたであらう。併し、「新室ほがひ」の変形で、常世の「まれびと」に事の序《ついで》に委託するのだといふ事はおなじである。宮廷の呪詞・寿詞の中、とりわけ神秘に属するものは発表しなかつたらうと言ふ事は、本編に述べるが、「新室ほがひ」の呪言及び、其に関係深い家々の氏[#(ノ)]上たる人々の生命呪《ヨゴト》は、唯二つしか伝
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