へられる。其が一段の変化を経ると、最初の印象は全然失はないまでも、古代人としての理想を極度に負うた国土と考へる様になつたのである。かうした考へ方の基礎は、水葬の印象から来る。わが国に於いても、尠くとも出雲人の上には、其痕跡が見えてゐる。水葬した人々のゐる国土を海のあなたに考へ、その国に対する恐れが、常夜・根《ネ》の国を形づくる様になつた。其と共に現《ウツ》し身にとつては恐しいが、常にある親しみを持たれてゐると期待の出来る此|幽《カク》り身《ミ》の人々が、恩寵の来訪をすると思ふ様になつたのである。だから此稀人に対する感情は単純な憧憬や懐しみではない。必其土台には深い畏怖がある。かうなると、常世の国が二つの性質を持つて、時には一つ、又ある時には二つにも分けられて来る。「常世」と「根」との対立がこれだ。信仰系統の整理がついてからは、村々の生活に根柢的の関係を持つ常世神は、段々疎外せられ、性質も忘却と共に変つて来た。大体平安朝末から文献に見えるあらえびす[#「あらえびす」は罫囲み]なる語は、此常世神の其時代に於いて達した、極度の変化を示すと共に、近代に向うて展開すべき信仰の萌しをも見せてゐる。
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