上の庶物を斥《サ》す事を考へれば、又草木岩石も物を言ひ人に化したりしてゐる事を考へれば、此成語の本来の意義は知れる訣だ。常世の論にも述べてある様に、「まれびと」が邑落生活をどうかすれば禍しようとする精霊を圧服する為に、時をきめて来臨して此等の低級な神々に「ことゝひ」をする。
私は、言問ふと言ふ考へを単に民間語原感に過ぎまいと思ふ。ことゞ[#「ことゞ」は罫囲み]と言ふ語根の活用であると考へる。「ことゞ」は命令を含んだ約束で、「これ/\の事は出来ないぞ」「これからかうせよ」と言ふ誓ひをさせる式であらう。いざなぎ[#「いざなぎ」に傍線]の命のよみ[#「よみ」に傍線]の国訪問の時、いざなみ[#「いざなみ」に傍線]の命との間に結ばれた各種の誓言は、実はすべてが「ことゞ」であつたのである。自身の親しい民の為に、これ/\の事をせぬ様、これ/\ぎり以上禍を与へぬ様にとの約束で、事実、「まれ人」と地上の神との「ことゝひ」の様の記憶が神話化して、特殊化したものとなつたのである。此古い形に対して、極端に変化したものを比べて見ると、継体天皇の時の事実と伝承した夜刀《ヤト》[#(ノ)]神を逐うた箭括《ヤハズ》[
前へ 次へ
全12ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
折口 信夫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング