で仏様のような女であった。その従順な母が、金のお札をあれほどまでにかたく拒んだのは必ずや仏様のお告げがあったに違いない。父がすぐにそれを飲んだのは仏様の罰《ばち》が当たったのであろう。
君子の記憶に間違いがなければ、父は仏様から罰を与えられるような原因があったのであろうか、そういえば父が近郷近在に聞こえるほど善根を培《つちか》うことに、なにか原因がありはしなかったか。祖母は実子である君子の父についてはあまり多くを語らなかったようである。それと反対に嫁である君子の母のことには毎日毎夜聞かぬ日とてないほど、数多く語ったように思う。
母は父の後妻で父とは年が二十以上も若かったそうで、顔も心も美しく、君子が生まれる前に死んだ、君子にとっては異母兄である継子《ままこ》をとても可愛がったということである。文字どおりの美人薄命であったのか、よはど不仕合せな目に会ってきた人らしく、ことに、父のところへくる以前に嫁《か》たづいていた家から不縁になり、その家を追われた事情にはなみ一通りならぬ口惜《くや》しい、悲しい事情があったらしいのであるが、母はそれを一口も口には出さなかったそうである。それが、父の
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