抱茗荷の説
山本禾太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)田所君子《たどころきみこ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)摂津《せっつ》の国|風平《かざひら》村
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)3[#「3」は黒丸3、1−12−3]
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女は名を田所君子《たどころきみこ》といった。君子は両親の顔も、名もしらない。自分の生まれた所さえも知らないのである。君子がものごころのつく頃には祖母と二人で、ある山端《やまばた》の掘っ立て小屋のような陋屋《ろうおく》に住んでいた。どこか遠い国から、そこに流れてきたものらしい。
祖母の寝物語によると、君子は摂津《せっつ》の国|風平《かざひら》村とか風下《かざしも》村とかで生まれたということであるが、いまは村の名や、国の名さえ君子の記憶にはなくなっている。ただ夢のように記憶しているのは、背戸に大きな柿の木があって、夏なぞ六尺もあろうかと思われる大きな蛇が、屋根から柿の木に伝わっていたことや、蕗《ふき
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