母の死因をたしかめようと志してから、妙に自分の身近に監視の目が光っているように思われるし、自分の命が危険にさらされているような不安さえ感じられる。今夜のようなことが三度もあるのはきっと自分の命を狙っているに違いない。人形の腹から出て来た手紙には、今は、もはや争う必要がなくなりました、この人形は不要になったのです、とある。母を殺したから、もはや争う必要がなく、人形が不要になったというのに違いない。だから君子が母の死因を探すことがきっと恐ろしいのだ。それで禍《わざわい》の根を断つために自分を殺そうとしているのだ。母を殺したものが父を殺したのだ。自分が殺されてなるものか、きっと復讐をしてやる――と、君子は雄々しくも決心したのであった。
それからの君子は毎夜、用意を整えて待ちうけた。はたして四度目に黒い影の現われたのは十日ばかりの後であった。先のときと同じように長い間障子の外に立っていた黒い影は、暗い君子の部屋のなかに一歩踏み入れて、じっとそこに立ったまま室内をうかがっている様子だった。君子は闇のなかに瞳を凝らした。すると、いつもそうであるようにどこかの廊下から人の歩く足音が聞えてきた。黒い
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