とは、結局|相剋《そうこく》する双生児の伝説に違いない。と、すぐ考えられたが、左の乳の上に描かれている梅の模様はなんの意味であるのか、君子には容易に解けぬ謎であった。考えあぐんだ末に、君子は『抱茗荷の説』と人形の背中に書いてあるのは、内容を現わす題名に違いない。だからこの人形のどこかにその内容が隠されているのではないか。この上は人形の内部よりほかに探すところはない。君子は思いきって人形の首を抜いて見た。果たしてそこに一枚のかきつけが隠されてあった。

 姉妹は、抱茗荷の説をそのまま、敵《かたき》どうしの双生児として生まれました。そして二人はいずれとも区別のつかぬほどよく似ていたのです。姉妹の母は姉妹にそれぞれ一つずつ人形を与えましたが、その人形を区別するために別々の衣裳をつけさせました。しかし人形を裸にしたときに区別がつかないので、一つの人形の左の乳の上に梅の模様をかきいれました。それは姉妹のそこに梅の花のような形をした痣《あざ》があったからです。姉妹は小さいときから仲がわるかったのですが、年頃になってからついに一人の男を争うようになりました。この争いは姉の勝利となり、姉はその男と結婚
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