―そう思うと今まで夢のように思っていたいろいろの謎が少しずつ解けるように思われる。中風で口も、身体も自由が利かず寝たままの老女の頭髪は、よほど薄くはなっているが黒い毛の一本もまざらぬ白髪ではないか。下男の父は既に死んだということではあるが、それが十年前送ってきた老人に違いない。
かりに、中風で寝ている白髪の老婆と、未亡人《おくさん》を、そのときの二人の女遍路として考えてみれば、二人は母が金のお札を飲んで死んだものと思っていたに違いない。それが数年を経てひょっこり現われた。殺されねばならなかったと想像することは決して無理ではない。未亡人といえば君子に不思議でならないことがある。それは君子が幼な心に覚えている母の面影とよく似ていることだ。母の殺された原因がここにあるのではないか。
そう考えだした君子はこの謎を解くために苦しみとおしたが、結局これを解く鍵は人形より外にはないと思った。
ある夜、ふけてから君子はそっと人形を出して見た。まず着物をはがし、襦袢から着物、帯にいたるまで丹念《たんねん》に調べて見たが、そこにはなんの不思議もなかった。背中に書いてある『抱茗荷《だきみょうが》の説』
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