ねることにきめていた。それはいうまでもなく夢のように記憶の底にある池の畔《ほとり》の森に囲まれた家を捜すためである。家の主人は一里ばかり離れたところに大きな池があると教えてくれた。そして、むかしこの町の庄屋に双生児《ふたご》があって非常に仲がわるく、兄弟が争った末についに弟は家に火を放《つ》けた。そのため町は焼土と化して全滅した。それから双生児は敵《かたき》の生まれかわりだといって町の人達は極度に忌《い》みきらった。ところが庄屋のうちにまた双生児が生まれた。双生児を産んだ庄屋の嫁は、それを苦にして双生児を抱いたまま、池に身を投げて死んだ。その池は今でも『ふた子池』とよばれている。そして、その池の周囲の畑にできる茗荷は二つずつ抱き合った形でできるという古くから伝わっている説を話してくれた。
 君子がふた子池のほとりにある豪家に女中としてやとわれてきたのは、それから間もないことであった。この家にやとわれてきてから君子の身体のどっかに潜んでいた記憶が一つ一つ浮き上がってきた。大名のお城のような大きな門や、玄関の脇につってある塗り駕寵、龍吐水の箱など、それはいつも事実が想像より醜いものであるよ
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