、お金の工面に帰った母親が、金の工面ができず、進退きわまって池に身を投げたものに違いないと言いだした。
君子は母の死骸を見たように思うし、それは旅をするようになってから見た池のある風景に、母の死を結びつけた夢ではなかったかと思えたりする。祖母の話にしたところで、それを全部覚えているわけではなく、きれぎれに、ちょうど夢を思い出すようにふいと頭に浮かぶ、その一片ずつを想像でつなぎ合わせてできあがった夢物語に等しいものではあるまいか。
しかし人形は今もなお手離さずに持っている。この人形がある限り母の死んだ前後の事情がまるきり夢ではあるまい。だが君子には人形を抱えて遠いところから、知らぬ伯父さんに送られて祖母のところに帰ってきた記憶がすこしもないのである。
祖母は君子が八歳のとき死んだ。
それからの君子は、掘っ立て小屋を捨て、町に出て子守奉公をするようになったが、君子は子守がいやでしかたなかった。ある日|空身《からみ》でなんの当てもなく町はずれに出てみると、そこの空地に夫婦者らしい旅芸人が人を集めて手品を見せていた。女の方は商売道具の傍に坐って太鼓を叩き、その夫らしい男は前に出て玉子を
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