深い淋しさを感じた。それは愛とか恋とか云うものとは別な、なんとも訳のわからぬ淋しさであった。何時の間にか閑枝の心に描かれた未知の手紙の男は、次第にその形をはっきりと現わして、閑枝の心に深く刻みつけられているのであった。
日が暮れていた。閑枝はまたしても窓越しに柳の葉の暗い茂みを瞶めていた。
(四)
閑枝の京へ帰る日が次第に近くなってきた。それは病気も多少は快くなっているし、こう云う淋しいところに、いつまでも一人で置くことは、却て本人の気を憂鬱にすると云う、兄の注意もあったからである。
京都へ帰ることになっても、閑枝は別に嬉しいとは思わず、またこの土地に大して執着も持って居なかったが、ただ無名の手紙の主が、何人であるかと云うことだけは、知りたいと思った。
だが、元より兄や姉に聞くことも、はばかられ、また聞いて見たところで、京阪地方の人達が入込む、温泉の旅館町では、判りそうにも思われなかった。
明日は、二番で立つと云う前の日、午後の三時頃であったが、一個の小包と、手紙が同時に着いた。
その小包を開いて見ると、細い額椽《がくぶち》に嵌《い》れた、八号ばかりの油
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