にお尋ねするまでもなく、私によく判っています。
あなたは、私の暗夜を歩むに似た生涯に、一つの燈《ともしび》となって下さいました。長いこと暗の夜に、とじこめられていたものが、急に光りを認めたときの喜こびが私にあの第一信を書かせました。私の心に点じられた火は、次第にあかるくなってゆきました。私は世をうらみ、身をなげく絶望から、蘇って生の喜びを感じさえしました、しかし、それは愚かな私のはかない喜びに過ぎなかったのです。あなた、と云う光りが、次第に強くなればなるだけ、私の苦悩を増す結果を愚な私はあまりの嬉しさに忘れていました。
あけても、暮れても、あなたへの手紙を、私の日記に書き入れることを、仕事にしていた私は、それが次第に耐えられぬ苦痛となって来ました。それは到底、あなたの前に、私と云うものを現すことが、出来ないからです。この頃では、あなたの姿を見なかった方が、幸福であったようにさえ思われます。
私は今一枚の画を書いています。その画が出来上りましたら、あなたのお目にかけてそれを最後に、あなたへの手紙を再び書くまいと決心しています。
[#ここで字下げ終わり]
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