絵と、一冊の本とが這入っていた。
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あなたは、明日いよいよお立ちになるそうですね、京都へお帰りになりましたら、ずい分身体を大切にして、幸福にお暮しなさいますように。
この前、申しましたように、画をお送り致します。この画は、御承知の通り、「しゃぼてん[#「しゃぼてん」に傍点]」を書いたものです、「しゃぼてん」は、あの青黒い、とげ[#「とげ」に傍点]のある醜い形をして居りますが、その頂上に開く小さな花は、血のような、真赤な色をしています。あなたと、おわかれするに臨んで、なぜ私が仙人掌の花を描いたか、それは、恐らく私の一生に、私の口からその理由をお話しすることはあるまいと思います。しかし何時かは――私の死後かも判りません――あなたに判るときがあるような気がします。
この「啄木の詩集」には何の意味もありません、ただ、あなたに差上げようと思うだけです。どうか、お身を大切に、幸福にお暮しなさいますように。
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閑枝は、胸のせまってくるのを感じた、余程病気が重いに違いない。一度会って見たい。慰めてあげたい。こう思って啄木詩集のページを繰って見た
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