、弥生軒のおやじが、その陳列箱を見るとお前の写真が一枚紛失していたと云うんだ、最もその陳列箱と云うのが、小さなガラスの箱を取り付けたようなもので、その開きは一寸金具を外せばすぐ開くようになっていたと云うことだ、それで弥生軒のおやじが青くなって、早速宅へ来て低頭平身お話をして帰ったがね、相手が写真だから何だか一寸変な気がせぬでもないが、此辺には「不良」などは居ないから、大方「美しい女の写真」と云うので潟の猟師の若衆でもが欲しくて盗んだものだろう、嘸《さぞ》大切に持っていることだろうから、気にするほどのこともあるまい……。
[#ここで字下げ終わり]
閑枝には、此の写真を盗んだものが誰れであるかを、直ぐにさとることが出来た。そして一寸不快な気持ちになったが、それほどまでに自分を慕っている未知の男を、いじらしいものに思う心がすぐに湧て来た。そしてもし其男の住所が判っていれば、「あの写真は、あなたに差上げます」と云ってやりたいような気持にさえなるのであった。
それから二年の月日が経った、閑枝が結婚してから一年になる。
片山津から帰ってからの実家の一年。結婚後の一年。その二年の間未知の男は
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