ます減じおれり。かかる無法の合祀励行によって、果たして当局が言明するごとき好結果を日本国体に及ぼし得たるかと問うに、熊楠らは実際全くこれに反せる悪結果のみを睹《み》るなり。
よってその九牛の一毛を例示せんに、西牟婁郡川添村は、十|大字《おおあざ》、九村社、五無格社、計十四社を滅却伐木して市鹿野《いちがの》大字の村社に合祀し、基本金一万円あるはずと称せしに、実際神林を伐り尽し、神殿を潰し、神田を売却して、得たるところは皆無に近かりし証拠は、この神殿が雨風のために破損を生じ、雨洩りて神体を汚すまでも久しく放置し、神職を詰《なじ》るに、全く修繕費金なしとのことなり。
また日高郡|上山路《かみさんじ》村は、大小七十二社を東《ひがし》大字の社に合併し、小さき祠《ほこら》はことごとく川へ流さしむ。さて神体等を社殿へ並べて衆庶に縦覧せしめけるに、合祀を好まぬ狂人あり、あらかじめ合祀行なわるれば必ず合祀社を焼くべしと公言せしが、果たしてその夜、火を社殿に放ち、無数の古神像、古文書、黄金製の幣帛《へいはく》、諸珍宝、什器、社殿と共にことごとく咸陽《かんよう》の一炬《いっきょ》に帰す。惜しむべきのはな
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