では盆踊り[#底本では「貧踊り」と誤植]をすら解禁し、田中正平氏らはこれを主張す。かかる弊事多きことすら解禁して村民を安んぜんとするも、盆踊りは年中踊り通すべきものにあらず。さて一方には神社ごとき清浄無垢在来通りで何の不都合なき本邦固有特色の快楽場を滅却せしめ、富人豪族が神社跡に別荘を立て、はなはだしきは娼妓屋を開きなどするに、貧民の婦女児童は従来と異《かわ》り、また神社に詣でて無邪気の遊戯を神林中に催すを得ず。大道に匍匐《ほふく》して自転車に傷つけられ、田畑に踏み込んで事を起こし、延いて双方親同士の争闘となり、郷党二つに分かれて大騒ぎし、その筋の手を煩わすなどのこと多きは、取りも直さず、灰を市に棄つるを禁ぜずして国中争乱絶えざるを致すと同じく、合祀励行の官公吏は、故《ことさ》らに衢に灰を撒きて、人民を争闘せしむるに同じ。従来誰も彼も往きて遊び散策し、清浄の空気を吸い、春花秋月を愛賞し得たる神社の趾が、一朝富家の独占に帰するを見て、誰かこれを怡《よろこ》ばん。貧人が富人を嫉《ねた》むは、多くかかることより出づるなり。危険思想を慮る政府が、かかる不公平を奨励すべきにあらず。
また佐々木
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