忠次郎博士は昨年十月の『読売新聞』に投書し、欧米には村落ごとに高塔ありて、その地の目標となる、わが邦の大字ごとにある神林は欧米の高塔と等しくその村落の目標となる、と言えり。漁夫など一丁字なき者は海図など見るも分からず、不断山頂の木また神社の森のみを目標として航海す。洪水また難破船の節、神林目的に泳ぎ助かり、洪水|海嘯《つなみ》の後に神林を標準として他処の境界を定むる例多し。摂州三島郡、また泉州一円は合祀濫伐のため神林全滅し、砲兵の演習に照準を失い、兵士は休息と露営に事を欠き、止むを得ず田畑また沙浜においてするゆえ、日射病の患者とみに多くなれり、と聞く。はなはだしきは合祀伐木のため飲料水濁り、また涸れ尽せる村落あり。
また同じく佐々木博士の言えるごとく、政府は田畑山林の益鳥を保護する一方には、狩猟大いに行なわれ、ややもすれば鳥獣族滅に瀕せり。今のごとく神林伐り尽されては、たとい合祀のため田畑少々開けて有税地多くなり、国庫の収入増加すとも、一方には鳥獣絶滅のため害虫の繁殖非常にて、ために要する駆虫費は田畑の収入で足らざるに至らん。去年十二月発表されたる英国バックランド氏の説に、虫類の数は
前へ
次へ
全72ページ中49ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
南方 熊楠 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング