」、504−1]《つと》め、あるいは枯損木と称して枯損にあらざる神木を伐り売るような神職が、何を誦し何を講じたりとて、人民はこれ狼が説法して羊を欺き、猫が弾定に入ると詐《いつわ》って鶏を攘《ぬす》まんとするに等しと嘲弄し、何の傾聴することかあらん。まのあたり古社、旧蹟を破壊して、その惜しむに足らざるを示し、さて一方に無恥不義きわまる神職をして破壊主義の発生を妨遮せしめんとするは、娼妓に烈女伝を説かしめ、屠者に殺生禁断を主張せしむるに異ならず。
むかし隋の煬帝《ようだい》、父を弑し継母を強姦し、しかして仏教を尊信することはなはだし。車駕一たび出で還らず、身凶刃に斃る。後世、仏者曲説保護せんとするも、その弁を得ず、わずかにこれこの菩薩濁世に生まれて天子すら悪をなすべからざるの理を実証明示せるなりと言う。嗚呼《ああ》今の当局もまた後日わずかにかの人々は宰相高官すら神社を滅却すればその罪の到来する、綿々として断えず、国家の大禍をなすを免れずという理を明証せる権化の再誕なりと言われて安んぜんとするか。今日のごとき不埒な神職に愛国心や民の元気を鼓吹せしめんと謀るは、何ぞ梁の武帝が敵寇至るに沙門を
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