後の由良の湊《みなと》に逆沓《さかぐつ》という故事あり、つれ王丸という冠者、三荘太夫が許《もと》を逃れて京へ登る時に、雪中に沓を跡になし穿きて逃れたる故、雪に附ける足跡奥の方へ行けるように見えしかば、追手の者奥の方を尋ね求めし故、遁れて京へ入る事を得たりという。
漁師の子は逆さま靴の謀で一旦逃げ延びたが、今更行き処がないので身を水中に投げると、竜王これをその宮中に迎え入れた。日初王聞きて諸呪師を召集し往きて竜を呪せしむ。その時一の夜叉名を賓伽羅《びんがら》と呼ぶ者曠野に住んで血肉を食い、その住む処樹木すら枯れ獣畜も逃れ去るほど故、人はとても活き得ず。漁師の子竜王己れの故に呪せられ苦しむを見兼ねて、この曠野に逃る。竜王呪師に向い、彼既に曠野の夜叉に食われた上は、我を呪し苦しめても益なしという故、呪師ども還って王に告げ、王も一安心しながらなお念を入れて漁師の子の成り行きを尋ねしめた。夜叉は諸《もろもろ》の悪狗《あくく》とともに一処にあって漁師の子の来るを見、これは自分を殺しに来た者と心得、狗をして追い捉えしむると、漁師の子素早く木に上り狗ども下にあって守る。夜叉来ってこの野へ来る人間は皆
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