犬これを尋ね廻れど更に行方知れず。爾来犬が犬に逢うと必ずこれに近附くは、紛失した免状が手に入ったかと尋ねるためだ(一八九五年版、カービーの『エストニアの勇者』二巻二八二頁)。
クラウスの『南スラヴ人のサーヘンおよびマルヒェン』に載する所は次のごとし。食卓より落ちる肉は犬の常食という定めとなって、犬と猫がその旨を驢の皮に書し、猫これを預かり屋根裏へ匿し置くと、※[#「鼬」の「由」に代えて「奚」、第4水準2−94−69]がこれを噛んでしもうた。一日食卓から落ちた肉を犬が食うて甚《ひど》く打たれたので、犬の王に愁訴する、王猫をして驢皮書を出さしむるに見えず。それより犬と猫、猫と※[#「鼬」の「由」に代えて「奚」、第4水準2−94−69]が不断仇視すると。上に引いたガスターの書に出たルマニアの伝説には、最初犬も猫もアダムに事《つか》えて各その職に尽し、至って仲よく暮したが、後患を生ぜざらんため協議して誓書を認め、犬は家外、猫は家内を司る事とし、猫その誓書を預かり屋根裏に納めた。その後天魔に乗ぜられて犬鬱憤を生じ、われは一切家外の難件に当り、家を衛《まも》り盗を捍《ふせ》ぎ、風雨に苦しんで残食
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