を塞《ふさ》いでこれまた沈睡したが、人も犬も睡中神智を多く得てラキムは世界無類の智犬となった。西暦四五〇年テオドシウス若帝の治世に至り、七人始めて寤《さ》めてエフェスス村に入った。たった今少し眠ったと思うたに似ず世態全く変って、キリスト教が全国に行われ、ローマ帝国は二分して東西各一君を戴く、何が何だかさっぱり分らず、王質が山を出て七世の孫に逢ったごとく、村人の答うるところ、皆七人を驚かさざるなきを見て一同更に一層驚異し、伝え伝えて帝の御聴に達し七人を召さる。七人御前に侯じて種々の奇事を奏した。就中《なかんずく》、二百年後マホメット世に出て回教を弘め大成功する由を予言したとは、回教徒がもっとも随喜する所である。かくて七人また洞中に退き死んだがその洞は今もあり。犬ラキムは当時一切の聖賢を凌駕した智犬と崇められ、人争うてこれに飲食を供したが、死後回教の楽土に安居常住すという。けだし畜生で回教の楽土に永住するを得たるものこの犬のほかに九あり。ヨナーの鯨、ソロモンの蟻、イシュメールの羊、アブラムの犢《こうし》、シェバ女王の驢、サレクの駱駝、モセスの牛、ベルキの郭公、マホメットの驢だ。キリスト教の
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