思いがけぬところへ来りて悔《くや》しく思し召しながら、承りぬとて居たまいたりければ、弓矢をもて大王に奉れり。いうがごとく次の日の午の時ばかりに、池に藻|靡《なび》きて数万の兵襲い来る。大王猿猴の勧めに依って弓を引いて敵に向いたもうに、弓勢《ゆんぜい》人に勝《すぐ》れて臂《ひじ》背中《はいちゅう》に廻る。敵、大王の弓勢を見て箭《や》を放たざる先に遁《のが》れぬ。猿猴ら大いに悦び、この喜びにはいかなる事をか成さんずるといいければ、大王告げて曰く、我れ年来の后を竜王に盗み取られたり。故に竜宮城に向って南方へ行くなり、と宣いければ、猿猴ら申さく、我らが存命|偏《ひとえ》に大王の力なり、いかでか、その恩を思い知らざらん、速やかに送り奉るべしとて、数万の猿猴大王に随《したが》って往き、南海の辺《あたり》に到りければ、いたずらに日月を送るほどに、梵天帝釈大王の殺生を恐れて国を捨て、猿猴の恩を知って南海に向う事を憐れと思して、小猿に変じて数万の猿の中に雑《まざ》りていうよう、かくていつとなく竜宮を守るといえども叶うべきにあらず、猿一つして板一枚草一把を儲けて橋に渡し、筏《いかだ》に組みて竜宮城へ渡らん
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