后今更に如何離れ奉らんとのたまいければ、ついに大王に具して深山に籠りたまいぬ。大国の軍、国王の失せたもう事に驚きて戦う事なくして小国に順《したが》いぬ。大王深山にして嶺の木の子を拾い、沢の岩菜を摘んで行いたまいけるほどに、一人の梵士出で来りて御伽《おとぎ》仕《つかまつ》るべしとて仕え奉る。大王嶺の木の子を拾いに坐《ましま》したる間に、この梵士后を盗んで失せぬ。大王還って見たもうに后の坐《いま》せざりければ山深く尋ね入りたもう。道に大なる鳥あり、二つの羽折って既に死門に入る。大鳥大王に申さく、日来《ひごろ》附き奉りたりつる梵士后を盗み奉りて逃れ侍りつるを、大王還りたもうまでと思いて防ぎ侍りつれども、梵士竜王の姿を現じてこの羽を蹴折《けお》りたりといいてついに死門に入りぬ。大王哀れと思《おぼ》して高嶺《たかね》に掘り埋めて、梵士は竜王にてありけるという事を知って、南方に向って坐しましけるほどに、深山の中に無量百千万の猿集りて罵りける処へ坐しぬ。猿猴大王を見付けて悦んでいわく、我ら年来領する山を隣国より討ち取らんとするなり。明日|午《うま》の時に軍定むべし、大王を以て大将とすべしという。大王
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