り得べく、第一遊君は多人が心を掛くるから日頃の思いを晴らしもらうはこの時と、必ず珠を償う者あるべしと考えてこの四人を同謀と虚言したと答えたので、王その智慧を感じますます鍾愛した。ある日王、兵衆を随えず長摩納に車を御せしめ、ただ二人深山に入って猟し、王疲れて長摩納の膝を枕に眠った。長摩納父の仇を復すはこの時と利剣を抜いて王の首に擬したが、父王平生人間はただ信義を貴ぶべしと教えたるを思い出し、恚《いか》りを息《やす》め剣を納めた時|俄然《がぜん》王驚き寤《さ》めた。身体流汗毛髪皆立ち居る様子、その子細を問うと我今夢に若者あり、右手剣を執り、左手わが髪を撮《つま》み、刀を我が頸に擬し、我は長生王の太子、亡父のために復仇するぞというを聞き、夢中ながら悔いて自ら責めたと語る。御者王に白《もう》す、還って安眠せよ、また驚くなかれ、長生王の子長摩納実は某《それがし》なりと。王命じて車を御せしめ王宮に還り御者の罪を議するに、まず手足を截《た》ちて後殺すべしの、その皮を生剥ぎにすべしの、火で炙《あぶ》った矢で射るべしのと諸大臣が申す。王この御者は長生王の太子なり。その復仇を中止して我を免《ゆる》したれば
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