深宮に入れその妙技に感じ寵愛自分の子のごとし。時に梵施王の后|摩尼珠《まにしゅ》を失い、我が所は王と長摩納のほか入る者なきにこの珠をなくしたは不審という。王、長摩納を呼び汝珠を取ったかと問うに、全く王の太子、王の首相、国中第一の長者、第一の遊君の四人と共謀して取ったと答う。王すなわち五人の者どもを禁獄したが容易に裁判済まず。かれこれするうち賊あり、私《ひそ》かに長摩納に向い、后宮へ出入するは王と后と汝三人に限るが、そのほかに后宮内を歩き廻る者がないかと尋ぬるに、猴一疋ありと答う。賊すなわち王に詣《いた》り請うて、女人の飾具|瓔珞《ようらく》を種々出し、多く猴を集めこれを著《つ》けて宮内に置くと、先から宮中にいた猴これを見て劣らじと偸《ぬす》んだ珠を佩《お》びて立ち出づるを賊が捕えて王に渡した。王すなわち長摩納を呼び汝珠を取らぬに何故取ったと言うたかと問うと、某《それがし》実に盗まざれど王と后と某のほか宮に入る者なきに盗まぬといったところで拷問は差し当り免れぬ。太子は王の愛重厚ければ珠くらいの事で殺されじ、首相は智者ゆえ何とか珠を尋ね中《あ》つべし、第一長者は最も財宝に富めばすいた珠を奉
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