めて出る時|好《よ》き幃帳《いちょう》内に妾を臥せしめ、四つ辻で象馬歩車の四兵の闘う処を見せ、闘いに用いた利刀の洗汁を飲ませて欲しいと。王それは出来ぬ相談だ、昔王位にあった時はともかく、かく落ちぶれて暮し兼ねるに「寝ていて戦争を眺めたい」などは思いも寄らぬというと、后それが出来ずば子を生まずに死ぬとせがむ。折から大臣に招かれ琴を弾《ひ》くにややもすれば調子合わず、何か心配があるのかと推問されて事情を語る。その時自分夫婦は腹からの乞食でなく実は拘薩羅国の王と后だと打ち明けたらしい。大臣これを憐《あわれ》み望みの通り実行させて刀の洗汁を后に飲ましむ。さて生まれた男児名は長摩納、この子|顔貌《かおかたち》殊特で豪貴の人相を具う。かの大臣これ後日聖主となり亡国を復興する人物と、后に向い祝辞を述べ、家人を戒めこの語を洩らさば誅戮《ちゅうりく》すべしというた。長摩納ようやく成人して梵施王の諸大臣や富人を勧進《かんじん》し施財を得て父母の貧苦を救う。梵施王聞き及んで長生王を死刑に処した。長摩納母を伴って他国に奔《はし》り、琴を修業しまた乞食して梵施王の城下へ来た。王その長生王の子たるを知らず、召して
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