往きてこれを抱え慰めたと。キャプテーン・クローかつて航海せし船に種も大きさも異なる数猴を積む、中に一種小さくて温良に、人に愛さるるも附け上がらず好《よ》く嬉戯するものありて、衆猴これを一家の秘蔵子のごとく愛したが、一朝この小猴病み付いてより衆猴以前に倍してこれを愛し、競うてこれを慰むるに力《つと》め、各|旨《うま》い物を竊《ぬす》んで少しも自ら味わわず病猴に与え、また徐《しず》かにこれを抱いて自分らの胸に擁《かか》え、母が子に対するごとく叫んだが、小猴は病悩に耐えず、悲しんで予の顔を眺め、予に援苦を求むるふりして嬰児のように鳴いた。かくて人も猴も出来る限り介抱に手を尽したが養生相叶わず、久しからぬ内に小猴は死んだという。またサー・ゼームス・マルクムも東インド産の二猴を伴れて航海中、一猴過って海に陥るを救わんとて他の一猴その身に絡《からも》うた縄を投げたが短くて及ばず、水夫が長い縄を投げると今落ちた猴たちまちこれを執え引き揚げられた。ジョンソン大尉インドバハール地方で猴群に愕《おどろ》かされてその馬騒ぎ逸《のが》れし時、鉄砲を持ち出して短距離から一猴を射《う》ち中《あ》てしに、即時予に飛
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