から英語の動詞エープは真似をするの義で、梵語等も猴に基づいた真似する意の動詞がある。『本草啓蒙』に猴の和名を挙げてコノミドリ、ヨブコトリ、イソノタチハキ、イソノタモトマイ、コガノミコ、タカノミコ、タカ、マシラ、マシコ、マシ、スズミノコ、サルと十二まで列《つら》ねた。インドで『十誦律』巻一に、動物を二足四足多足無足と分類して諸鳥|猩々《しょうじょう》および人を二足類とし、巻十九に孔雀、鸚鵡《おうむ》、※[#「けものへん+生」、第4水準2−80−32]々《しょうじょう》、諸鳥と猴を鳥類に入れあり。日本でも二足で歩み得るという点から猴を鳥と見て、木の実を食うからコノミドリ、声高く呼ぶから呼子鳥《よぶこどり》というたらしい。
 昔は公家衆《くげしゅう》など生活難から歌道の秘事という事を唱え、伝授に托して金を捲き上げた。呼子鳥は秘事中の大秘事で一通りは猴の事と伝えたが、あるいは時鳥《ほととぎす》とか鶏とか、甚だしきは神武天皇の御事だとか、紛々として帰著する所を知らなんだ。それを嘲《あざけ》った「猿ならば猿にしておけ呼子鳥」と市川|白猿《はくえん》の句がある。イソノタチハキとは何の事か知らぬが、『
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