いう。ソクラテスの顔はサチルス(羊頭鬼)に酷似したと伝うるが、孔子もそれと互角な不男《ぶおとこ》だったらしく、『荀子《じゅんし》』に〈仲尼《ちゅうじ》の状面|※[#「にんべん+其」、24−11]《き》を蒙《かぶ》るがごとし〉、※[#「にんべん+其」、24−12]は悪魔払いに蒙る仮面というのが古来の解釈だが、旧知の一英人が、『本草綱目』に蒙頌《もうしょう》一名|蒙貴《もうき》は尾長猿の小さくて紫黒色のもの、交趾《こうし》で畜うて鼠を捕えしむるに猫に勝《まさ》るとあるを見て蒙※[#「にんべん+其」、24−14]《もうき》は蒙貴で英語のモンキーだ。孔子の面が猴のようだったのじゃと吹き澄ましいたが、十六世紀に初めて出たモンキーなる英語を西暦紀元前二五五年蘭陵の令と為《な》ったてふ荀子が知るはずなし、得てしてこんな法螺《ほら》が大流行の世と警告し置く。
猴の今一つの英名エープは、梵名カピから出たギリシア名ケフォス、ラテン名ケブス等のケをエと訛《なま》って生じたとも、また古英語で猴をアパ、これ蘭名アープ、古ドイツ名アフォ等と斉《ひと》しく猴の鳴き声より出たともいう。さて猴はよく真似《まね》をする
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