かしさる歌よみと人に知られん」。その相似たるより毳々《むくむく》と聞けばたちまち猴を聯想するので、支那で女根を※[#「けものへん+胡」、29−9]※[#「けものへん+孫」、29−9]《こそ》といい(『笑林広記』三)、京阪でこれを猿猴と呼び、予米国で解剖学を学んだ際、大学生どもこれをモンキーと称えいたなど、『松屋《まつのや》筆記』にくぼの名てふ催馬楽《さいばら》のケフクてふ詞を説きたると攷《かんが》え合せて、かかる聯想は何処《どこ》にも自然に発生し、決して相伝えたるにあらずと判る。ただし『甲子夜話』続十七に、舅《しゅうと》の所へ聟見舞に来り、近頃|疎濶《そかつ》の由をいいかれこれの話に及ぶ。舅この敷物は北国より到来せし熊皮にて候といえば、聟|撫《な》で見てさてさて所柄《ところがら》とてよき御皮なり、さて思い出しました、妻も宜《よろ》しく御言伝《おことづて》申し上げますとあるは、熊皮は毳々たらぬがその色を以て聯想したのだ。仏経や南欧の文章に美人を叙するとて髪はもちろんその他の毛の色状を細説せるを、毛黒からぬ北欧人が読んで何の感興を生ぜぬは、自分の色状と全く違うからで、黒熊皮を見ても妻を想起
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