妃の終りも上に引いた一伝にほぼ同じくてやや違う。王敵を平らげ帰って妃に向って曰く、婦、夫とするところを離れ、隻行一宿するも、衆疑望あり、豈《あに》いわんや旬朔《じゅんさく》をや、爾《なんじ》汝の家に還らば事古儀に合わんと、妃曰くわれ穢虫《わいちゅう》の窟にありといえども蓮の淤泥《おでい》に居るがごとしわれ言信あれば地それ折《さ》けんと、言《げん》おわりて地裂く、曰くわが信現ぜりと、王曰く、善哉《よいかな》、それ貞潔は沙門の行と、これより、国民、王の仁と妃の貞に化せられたと述べ居る。
 この『六度集経』がラーマーヤナ譚を支那で公にした最古の物であろう。原来『ラーマーヤナ』は上に述べた私陀の二子を養育した仙人ヴァルミキの本作といわれ、異伝すこぶる多く、現存するところ三大別本あり。毎本所載の三分一は他本に全く見えず、いずれも梵語で筆せられしは仏在世より後なれど、この物語は仏在世既にあまねく俗間に歌われ種々の増補と改竄《かいざん》を受けたのだから、和漢の所伝が現在インドの諸本と異処多きはそのはずだ。仏典にはこれを一女の故を以て十八|※[#「女+亥」、91−7]《がい》(今の計《かぞ》え方で百八
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