なるから詮方《せんかた》なく、なるほどこれまでの致し方は重々悪かった、過ぎた事は何ともならぬ、これから古法通りにしましょうと詫《わ》び入りて、厩に赤銅板を布《し》き太子に蓋、王の長女に払子、大夫人に食物を奉ぜしめると、大臣も不承不承慎んで馬の糞を金箕で承《う》ける役を勤めたとあらば、定めて垂れ流しでもあるまじく、蜀江《しょっこう》の錦ででも拭《ぬぐ》うたであろう。かく尊ばれて智馬満足し始めて食事した。
さて王が苑に遊ぼうと思い智馬を召すと、すなわち背を偃《ひく》くす。王これは背に病があるのかと問うに、御者答えて王の乗りやすいように背を偃くし居るという。王それに乗って河辺に至れば馬進まず。水を怖るるのかと問うに、尾が水を払うて王に懸るを恐ると答えた。即《やが》てその尾を結び金嚢《きんのう》に盛り、水を渉《わた》って苑に至り遊ぶ事多日。予《かね》てこの王を侮り外出したら縛りに往くと言い来った四遠の諸国、王が城を出で苑に住《とど》まると聞き大兵を興し捉えに来る。王城へ還らんとする中途に、蓮花咲き満ちた大池ありて廻り遠い。しかるを智馬身軽く蓮花を踏んで真直ぐにそろそろ行きながら早く城に入り得
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