ずと答え、厩へ往きて馬に対《むか》い、汝は瓦師方にありて碌に食料をくれず骨と皮ばかりに痩《や》せて困苦労働したるに、今国王第一の御馬に昇進しながら何を憂えて物を食わぬかと問うた。馬答うらく、我足|迅《はや》く心|驍勇《ぎょうゆう》で衆人に超《こ》えた智策あるは汝能く知る、しかるに愚人ら古法通りに我を待遇せぬ故活きいるつもりでないと。掌馬人これを聞いて王に勧め、古法通り智馬を遇せしめた。その法式は王城より三駅の間の道路を平らに治め、幡《はた》と蓋《かさ》で美々しく飾り、王|親《みずか》ら四種の兵隊を随えて智馬を迎え、赤銅の板を地に畳み上げて安置し、太子自ら千枝の金の蓋を※[#「敬/手」、第3水準1−84−92]《ささ》げその上を覆い、王の長女金と宝玉で飾った払子《ほっす》で蚊や蠅を追い去り、国大夫人蜜を米に塗り金盤に盛り自ら※[#「敬/手」、第3水準1−84−92]げ持ちて食わせ、第一の大臣は一番貧乏|鬮《くじ》で親ら金の箕《み》を執りて智馬の糞を受けるのだ。王それでは馬を王以上に崇《あが》めるので大いにわが威を堕《おと》すと惟《おも》うたが、智馬が自分方におらぬとさっぱり自分の威がなく
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