認むるの日が幸いにあったなら、勲章の何のと下さるに及ばず、海外多数の碩学《せきがく》名士が毎《いつ》も同情せらるる予の微力を以て老いの既に至れるを知らず、ややもすれば眠食を廃して苦心する研究に大|妨碍《ぼうがい》を加うる和歌山県の官公吏を戒飭《かいちょく》して、彼輩衣食のために無益の事を繁《しげ》く興し、あるいは奸民と結託し、あるいは謄記料を撤免してまでも、日本国光の一大要素たる古社神林を棄市|凌遅《りょうち》同然の惨刑に処し、その山を赭にしその海を蕩《とう》し、世界希覯の多種の貴重生物をして身を竄《かく》し胤を留むるに処なからしめて、良好の結果を得たりなど虚偽の報告を上《たてまつ》りて揚々たるを厳制されたしと啓《もう》す。もっとも海外に限らず海内《かいだい》にも多少の同情を寄せらるる人少なからぬが、その多くは官吏で飯の懸念から十分に加勢もしてくれず。かつて大阪府の薄給官吏が血書してこの意を述べ、空しく予の志を怜《あわ》れむと匿名書を贈られたが最上の出来じゃ。また甚だしきは当路に媚《こ》びたり、浅薄なる外来宣教師に佞《ねい》したり、予を悪口|嘲弄《ちょうろう》する奴もある。昔|織田右馬
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