ム・ピソカルピウムてふ一種の三態たるに過ぎぬごとし。因ってこの一つの名もて、白井博士に報じ、その近出に係る『訂正増補日本菌類目録』四八五頁に録された。さてこの菌は、米国植物興産局の当事者たるスウィングル氏(予と同時にフロリダにあって研究した人)も近年予に聞くまで気付かなんだらしいが、予は三十年前から気が付きおり、染料として効果著しきもので、貧民どもに教えて、見るに随って集め蓄えしめたら大いに生産の一助となる事と思う。ただし予も今に余暇ごとに研究を続けおり、これより外に一言も洩らさぬ故、例の三銭の切手一枚封じ越したり、カステラ一箱持って遥々《はるばる》錦城館のお富(この艶婦の事は、昨年四月一日の『日本及日本人』に出でおり艦長などがわざわざ面を見に来るとて当人鼻高し)を介して尋ね来りしたってだめだと述べ切って置く。欧米の人はかかる事をちょっと聞いたきり雀で、諄々《くどくど》枝葉の子細を問わず、力《つと》めて自ら研究してその説の真偽を明らめ、偽と知れたらすなわちやむ。もしいささかも採るべきありと見れば、他の工夫処方の如何《いかん》を顧みず、奮うて自家独見の発明に従事する。前日ス氏来訪された時
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