き還して亭主を責めたが応ぜず。叔父を訪《おとの》うて泣き付くと、広げさえすれば飲食思いのままに備わる机懸けをくれる。それを持ってまた同じ旅亭に宿り、前のごとく掏り替えられ、叔父に泣き付くと、仏の顔も三度と呟《つぶや》きながら、今度は打てと命ずれば他《ひと》を打ち続け、止《や》めと命ずれば止む杖をくれる。それを携えて例の旅亭に宿る。亭主その杖美しく柄が金作りなるを見、夜その室に入って窃《ぬす》みに掛かるを待ち受けいたかの児小声で打て打てと呼ぶと、杖たちまち跳《おど》り出て烈《はげ》しく亭主を打ち、勢い余って鏡、椅子、硝子《ガラス》窓以下粉砕せざるなく、助けに駈け付けた人々も皆打たれたので、亭主盗み置いた小驢と机懸けを返してようやく免《ゆる》され、かの児は件《くだん》の三物をもって家に帰り母と安楽に富み暮した、目出たし目出たしとある。
『フォークロール・ジョーナル』巻四に、支那人の起原について蒙古人が伝えた珍譚を載す。いわく、貧士あり路上で二人が羊眼大の玉を争うを見、その玉を渡せ、われそれを持ちて走るに、まず追い著いた者玉の持ち主たるべしといい、玉を受け取りて直ちに嚥《の》み下し隠れ去った
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