れなくなり、窃《ひそ》かに井中へ囁き込むと、魚が聞いて触れ散らし角の噂が拡まったので王死んでしまい、二使人不死の水を持ち帰っても及ばず、共にこれを飲んで今に死なず、一人は人に見《まみ》えずに地上を周遊して善人を助け、一人は純《もっぱ》ら牛を護るという(グベルナチス伯とサルキンの説)。
上述の月氏国王が謀を馬に洩らして弑《しい》に遭ったり、フリギアや蒙古の王の理髪人が穴に秘密を洩らしたりしたについて想い起すは、アラビヤ人が屁《へ》を埋めた話で、これもその節高木君へ報じたが、その後これについて、政友会の重鎮岡崎邦輔氏が、大いに感服された珍談がある。人を傭《やと》うて書き立ててもらおうにも銭がないから、不躾《ぶしつけ》ながら自筆で自慢譚とする。昔アラビヤのアブ・ハサンてふ者カウカバン市で商いし大いに富んだが、妻を喪《うしの》うて新たに室女《きむすめ》を娶《めと》り大いに宴を張って多人を饗し、婦人連まず新婦に謁し次にアを喚《よ》ぶ。新婦の房に入らんとて恭《うやうや》しく座を起たんとし、一発高く屁を放《ひ》ってけり。衆客彼|慙《は》じて自殺せん事を恐れ、相顧みてわざと大声で雑談し以て聞かざる真
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