れを聞いて駒また妻の双足を舐り跪くと妻も可愛く思う。駒は起《た》ちてあるいは固まりあるいはいまだ固まらぬ諸多の瓦器の間を行き旋《めぐ》るに一つも損ぜず。珍しく気の付いた駒と妻が感じ居る。この時瓦師土を取りに出ると駒随い行き、その土を袋に満ててしまうを見て背を低くす。袋を載せると負うて宅へ還《かえ》る。因ってこれを留め糠《ぬか》に胡麻滓《ごまかす》を和《ま》ぜて飼い置いた。
その頃|婆羅尼斯《はらにし》の梵授王一の智馬を有したので他国|賓服《ひんぷく》した。しかるにその馬死んだと聞き他国より使来り、王今我国へ税を払え、払わずば城より外出を許さぬ、外出したら縛って将《つ》れ行くという。王聞きて税を払わず外出せなんだ。時に販馬商人北方より馬多く伴《つ》れ来た。王大臣に告《い》うたは、我智馬の力に由って勝ち来ったに、馬死んでより他に侮られ外出さえ出来ぬ、何所《どこ》かに智馬がないか捜して来いと。大臣|相馬人《うまみ》を伴れ、捜せど見当らず。かれこれする内かの牝馬を見て、相馬人これこそ智馬を生んだはずだといった。大臣馬主に問うて、その牝馬が産んだ駒は瓦師方にありと知り、人を使して車牛と換えんと
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