−14−85]《けいじった》に、大王臣の教え通りせば四海を統一すべき間、何卒言を密にして臣の謀を洩らさぬようと願い、王承諾した。すなわちその謀を用いて三海皆臣属しければ王馬に乗りて遊び行く路上馬が足を折り挫《くじ》いた。王たちまち智臣の教えを忘れその馬に向い、我三海を征服せるも北海のみいまだ降らず、それを従えたら汝に乗らぬはず、それに先だって足を挫くとは不心得の至りと言った。それが群臣の耳に入ったので、多年兵を動かして人臣辛苦|息《や》まざるにこの上北海を攻むるようではとても続かぬ故王を除くべしと同意し、瘧《おこり》を病むに乗じ蒲団蒸《ふとんむし》にして弑《しい》した。かかる暴君一生に九億人殺した者も、かつて馬鳴《めみょう》菩薩の説法を聴いた縁に依って、大海中千頭の魚となり、不断首を截《き》られるとまた首が生え須臾の間に頸が大海に満つその苦しみ言うべからず。しかるに※[#「牛+建」、第3水準1−87−71]椎《こんつい》の音聞える間は首斬れず苦痛少しく息むと告げたので、寺で木魚を打ち出したポコポコだそうな。誠に口は禍《わざわい》の本《もと》嗜《たしな》んで見ても情なや、もの言わねば腹|
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